それでも、まだ。


――さらに1時間後


既に時刻は6時を回っていた。


全ての薬物を組織に送り終わり帰ってきたセシアとシキは、重い足取りで台所へ向かっていた。



『あかん…。もうすぐ辿りついてしまうわ…!でも、悔しいほどに腹が減ってるわ……!』



『……私もです。』



セシアとシキはげっそりとしていた。


…この数時間でいくらか老けてしまった気分だ。



『というか、台所で食事なんて出来るんですかね…?』



『俺もそう思ってたんや。せめて広間でって言ったんやけど、台所って聞かんくてな。…あんな異臭の場で…。』




2人は重い溜め息をついた。


そうしている間にも、着実に台所へと近づいていく。




『なんでレンもジルも食えるんやろな〜。アヴィルさんでさえ無理なのに。』



その言葉にセシアはハッとした。


――そうだ。今はその他にも…




『神田がいるのに……。』


『ん?かんだ?誰やそいつ?』



シキがセシアの呟きに反応すると、セシアはまたハッとして顔を上げた。



『あ、えっと、その…』
『おっ、オメーらじゃねぇか。』



セシアがシキに説明しようとすると低くハスキーな声がセシアの声を遮った。




『あ、アヴィルさんや!』



シキがニッと笑って手を振ると、アヴィルも2人の正面から手を挙げて歩いてきた。



『今終わったのか?…すまなかったな、面倒な仕事をさせちまって。』



2人の窶れた顔を見て悟ったのだろう。アヴィルは申し訳なさそうに言った。


『いやいや!違うんやで!…まあ、確かに疲れたけどな。』


『なら何が違ぇんだ。…もしかして、晩飯か?』


アヴィルがニヤリと笑った。



『『なっ……!』』


セシアとシキは同時に驚いた。



『ま、まさかアヴィルさんも…?』


『ああ、そのまさかだ。』


アヴィルはポケットから煙草を取り出して火を点けた。



『アヴィルさん、なんでそんなに落ち着いてるんや!寝込みたいんか!?』


『ククッ、まあ慌てるな。行きゃあ分かる。』



アヴィルが楽しそうに話すのを見て、セシアとシキは顔を見合わせた。



『…おい、アヴィルさんが笑ってるで。』


『もう既にやられちゃったんですかね…。』



『おいコラ。聞こえてるぞ。それに俺は正気だ。』



アヴィルが顔をしかめて睨み、
2人は苦笑いを浮かべた。



『ったく。ほれ着いたぞ。開けてみろ。』



いつの間にか台所に辿りついたらしい。



――なんか、いい匂いが…!?



セシアは内心とても驚きつつ、ドアを開けた。



< 62 / 212 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop