それでも、まだ。
――台所にて。
『アヴィルさん、アヴィルさん。』
レンは声を弾ませながらテーブルでお茶を啜っているアヴィルの隣に座った。
『…なんだよ?』
アヴィルは幾分穏やかな表情でレンの方を見た。
『あらら、いつもよりご機嫌ですね〜。……いつもそうだといいのに。』
レンがボソッと言うと、アヴィルはすぐに眉を寄せた。
『あ?なんか言ったか、コラ。』
『なーんでも?…それよりも、いい子だったでしょ?』
レンがそう言うと、アヴィルは再び表情を緩ませた。
『…ああ、そうだな。…あいつに似てる。』
『…………。』
そのとき、皿洗いを終えたジルが
流し台から戻ってきた。
『お、ジルお疲れ様〜。皿何枚割っちゃった?』
『……10枚だ。』
『……それ、半分以上だよ?』
『……精進する。』
ジルがバツが悪そうな表情でアヴィルとレンの向かい側に座ると、煙草に火を点けたアヴィルがジルの方を向いた。
『…今度皿を大量に買ってこい。』
『…はい。…シキとマダムは?』
『もう部屋に戻った。…事情話してくれてんだろ。』
――沈黙が流れた。
レンもジルも黙って静かにアヴィルの反応を待った。
アヴィルの煙草の灰が落ちそうになったころ、ようやくアヴィルが口を開いた。
『…まだ完全に信用したわけじゃねぇ。…もちろんセシアもだ。』
ジリッとアヴィルが灰皿に煙草を押し付けると、レンは顔をしかめた。
『…どこがまだ不満なんですか?智将アヴィルさん。』
レンが皮肉混じりに言うと、アヴィルは小さく溜め息をついた。
『確かにあいつら自身は大丈夫なのかもしれねぇ。…問題は、あいつらを取り巻くモノだ。』
『取り巻くモノ、とは?』
ジルが静かに尋ねると、アヴィルは宙を見上げた。
しばらくそうしていたが、煙草を再び吸いはじめると、レンとジルの方に向き直った。
『…これから言うことは、誰にも言うんじゃねぇぞ。もちろん、幹部にもだ。』
そしてアヴィルは、静かに話し出した――…。
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