それでも、まだ。
――午後2時
神田とレンは幹部フロアである28階から修業場のある24階に向かって階段を下りていた。
相変わらず辺りは暗く、2人の足音だけが階段全体に響いていた。
『…真理ちゃん、緊張してるの?さっきからずっと黙ってるけど。』
レンは頭の後ろに腕を回して神田の様子を窺った。
『ち、ちょっとだけ…。』
神田はハハ、と渇いた笑いを漏らしながら答えた。
『大丈夫だよ?幹部しかいないはずだし。』
『それはそうなんですけど…。』
神田は口ごもった。
『………怖いの?』
『はい………。』
今から自分は何を見るのか、部外者の自分が本当に見ていいのか、見たところで受け入れることが
出来るのか……。
先程まではみんなの普段の様子を見たいの一心だったが、今はそんな不安が次から次へと神田の頭をよぎるのだ。
そんな神田の様子を見て、レンはしばらく黙っていたが、やがて静かに口を開いた。
『…確かに躊躇うかもしれないね。僕たちは生きるために、本気で修業するからね。…でも、それでも知ろうとしてくれてるんでしょ?友達のために。』
『――!』
神田が思わずレンの方を見ると、レンは笑っていた。
『大丈夫だよ。その気持ちがあれば。………僕たちも、真理ちゃんに見てもらいたいんだ。』
『…え?』
神田がうまく聞き取れずに聞き返したが、レンはそれには応えずに、ただ前を指差した。
『ほら、着いたよ。入ろうか。』
神田は一度立ち止まったが、決心したようにぎゅっと拳を作ってゆっくり頷くと、レンの後ろに慎重についていった。
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