それでも、まだ。


――午後2時


神田とレンは幹部フロアである28階から修業場のある24階に向かって階段を下りていた。



相変わらず辺りは暗く、2人の足音だけが階段全体に響いていた。



『…真理ちゃん、緊張してるの?さっきからずっと黙ってるけど。』


レンは頭の後ろに腕を回して神田の様子を窺った。



『ち、ちょっとだけ…。』



神田はハハ、と渇いた笑いを漏らしながら答えた。



『大丈夫だよ?幹部しかいないはずだし。』


『それはそうなんですけど…。』


神田は口ごもった。



『………怖いの?』


『はい………。』



今から自分は何を見るのか、部外者の自分が本当に見ていいのか、見たところで受け入れることが
出来るのか……。




先程まではみんなの普段の様子を見たいの一心だったが、今はそんな不安が次から次へと神田の頭をよぎるのだ。



そんな神田の様子を見て、レンはしばらく黙っていたが、やがて静かに口を開いた。



『…確かに躊躇うかもしれないね。僕たちは生きるために、本気で修業するからね。…でも、それでも知ろうとしてくれてるんでしょ?友達のために。』



『――!』



神田が思わずレンの方を見ると、レンは笑っていた。



『大丈夫だよ。その気持ちがあれば。………僕たちも、真理ちゃんに見てもらいたいんだ。』


『…え?』



神田がうまく聞き取れずに聞き返したが、レンはそれには応えずに、ただ前を指差した。



『ほら、着いたよ。入ろうか。』





神田は一度立ち止まったが、決心したようにぎゅっと拳を作ってゆっくり頷くと、レンの後ろに慎重についていった。



< 68 / 212 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop