それでも、まだ。


――遡ること30分。



シキとの賭けに勝ったことにひとり喜んでいたセシアは、隣に居たはずの神田がいつの間にかいなくなっているのに気づいた。



『…あれ、神田?』


『真理なら給水所に行ったで。』


セシアがきょろきょろしていると、シキが呆れ顔で近寄ってきた。



『あ、シキさん。甘味よろしくお願いしますね。絶対ですよ。絶対。』


『分かってるわ!どんだけ甘味好きなんや!!』


『どれだけって…。少なくともシキさんよりは断然好きですけど。』


『おいぃぃぃぃぃぃ!!』



叫ぶシキを無視して木刀を取りに行くと、そこにはマダムがいた。



『…楽しそうだねぇ。』



クククと笑いながらセシアに木刀を差し出すマダムに、セシアは急に恥ずかしくなって、顔を少し赤らめてそれを受けとった。


ちょっとムッとしたようにマダムに背を向けて木刀の手入れをし始めたセシアに、マダムはさらに笑みを深くした。



『子供扱いしたんじゃないさ。それに、恥ずかしがる必要はないさね。……セシアも前より笑うようになったね。』



『……え?』



マダムが最後に言った言葉の意味が分からずにセシアはマダムの方を振り返ったが、既にマダムはいなかった。



…相変わらず気配を消して動くのが上手いな。



そう思いつつ、マダムがいなくなった方をぼんやりと眺めていると、不意に背中が重くなった。



『セシア〜。何ぼーっとしてるの〜?』



背中への重みの犯人はさっきまで離れた所で素振りをしていたはずのレンだった。



―…ここにも気配を消して動くのが上手いのがいた…。



『僕の気配の消し方も上手でしょ〜?』


『…心を読むの止めてくれません?』


人の悪い笑顔を浮かべるレンに、セシアはため息をついた。


『というか、早く離れて下さい。暑いです。』



もたれ掛かるというより、抱き着いているという状態に近いレンを、セシアは離そうとしたが、レンは一層腕の力を強くした。



『またまた〜、照れちゃって。顔が赤いよ〜?』


『なっ…なっ…!』



レンに指摘されて初めて顔が赤いことに気づいたセシアは、またまた急に恥ずかしくなり、レンの腕から逃れようとした。



『あ!何してんねん!レンだけずるいで!よっしゃ、俺もセシアにだーい…ブベラぁぁ!!』



そしてなんとかレンの腕から逃れると、こちらに全力で走ってきたシキを、木刀で思いっきり殴り飛ばしたのだった。



そのときのセシアの顔は真っ赤だったとかなんとか。




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