それでも、まだ。


レンがそう言うとジルは振り向いて、顔を歪めた。


『…幹部が組織に一人もいないというのはまずいだろう。』


『…でも、一人で行くの?それこそ危ないよ。ジルにも何か起こるかもしれないし。…それに。』


『…………?』


『何を言っても僕が行きたがってることくらい分かってるでしょ?』


『―!』



ジルは驚いた顔をしたが、すぐにフッと笑った。



そしてそのまま壁に立てかけてあった刀を手に取り、腰に差した。

その様子にレンは口端を上げると、自分も刀を自室に取りに行こうとドアの方を振り返った。


…そこにはマダムが闇を伴わせて静かに佇んでいた。



『うわっ、ビックリした!』



レンが思わず後ずさると、マダムはニヤリと笑った。


『驚いたかい?』


『…そりゃあもう。…ていうか、気配消して来ないでよね。しかも何闇まで伴わせてるのさ。なんか怖いんだけど。』



レンが一通り文句を言うと、マダムは意に介さずにクククと笑った。

そしてキセルをおもむろに取り出すと火を点けた。



『…それで?幹部トップの2人で何処に行くんだい?』


煙を吐き出しながらまた不敵に笑ったマダムに、レンとジルは同時に顔を引き攣らせた。



『あ〜…、やっぱり聞いてました?』


レンが恐る恐る尋ねると、マダムは肯定も否定もせずに口端を更に釣り上げた。



『『(絶対聞かれたな……。)』』



2人には数年前も同じような経験があった。そのときも2人で組織を出た所を仕事からちょうど戻ってきたマダムに目撃され、後からアヴィルにこっぴどく叱られたのだが。



『なんだい、今度は墓場に行くのかい?』


『あ、うん。そのつもりだけど……。』



マダムはふぅと溜め息をついた。

…が、その表情はどこか愉しそうだ。



『行っておいでよ。…私が組織にいるから問題ないさ。アヴィルたちもきっと怒らないだろうさ。』



その言葉に、レンとジルはキョトンとして顔を見合わせた。



『……ただ。』


マダムは再び煙を吐き出すと、口端を上げたまま取り巻く闇を濃くして2人に少し近づいた。


それに比例して2人も少し後ずさった。表情は、マダムとは対称的に強張っている。



『…ある噂だけ教えておこうと思ってね。』


『『………噂?』』


『…最近、出るらしいのさ。』




マダムのニヤリと笑った表情と彼女を取り巻く闇を、窓からの月光が不気味に照らしている。



『出るって……?』


2人は冷や汗を流しつつマダムの言葉を待った。ジルに至っては顔が心なしか青くなっている。









『…3個の目を持つ黒猫さ。その姿を見た者は―――』



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