それでも、まだ。
―――――
『着いたね。』
『…………あぁ。』
レンとジルはマダムの話を聞いた後、組織を出て墓場までやって来ていた。
『今日曇ってるから余計暗く感じるね〜。』
『…………あぁ。』
レンは両腕を頭の後ろに組んで、ジルの顔をこっそり窺った。
(…やっぱり青くなってるなぁ。)
レンは苦笑した。
このいつもは冷静沈着な相棒は、こういう系はめっきり駄目なのだ。…つまり、ホラーとか、オカルトとか、幽霊とか、…幽霊とか。
マダムのある噂を聞いた後からずっとジルは顔面蒼白である。
対する自分は全然大丈夫なのだが。むしろ、先程とは打って変わり、若干この状況を楽しんでいたりする。
『明日は雨かもね〜。』
『…………あぁ。』
『ジルってホントこういうの苦手だよね。』
『…………あぁ。』
『……ジルってヘタレで意気地無しだよね。』
『…………あぁ。』
――本当にこの隣の表情優れない奴は大丈夫だろうか。
もし今何か敵が現れたら、簡単にやられてしまうのではないだろうか。…いや、むしろ、敵も余りの青白い表情に同情するかもしれない。
…まあ、この墓場に敵が現れるのは絶対にありえないのだが。
そしてレンはふとあることを思い付いて、口端を釣り上げた。
その表情がとても悪いもので、ろくなことを考えていないというのは、ジルは気付いてもいないだろう。
『…ジル、早く2人を見つけないと心配だよね。』
『…………あぁ。』
『…じゃあ、別々に捜した方が効率がいいよね?』
『…………あぁ。……え?』
ジルが我に返ってレンの方を見たときには、レンの背中は小さくなっていた。
『じゃあ僕は向こうを捜すから、ジルはあっちをよろしくー。』
『……え?………えぇぇ…?』
固まっているジルを余所に、レンは手を振りながら軽快な足取りで進んで行った。
『…面白いことになるなぁ。』
そう、ひとり満面の笑みで呟きながら。
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