それでも、まだ。


『……おじいさん?』


神田はグルリと回りながら店中を見回したが、老人はどこにもいなかった。


老人が座っていた丸椅子だけが寂しそうに残っている。




『はいはいはい、待たせたね〜。…あれ、帰っちゃったか。』


そのとき蘭が品物が入った紙袋を両手に抱え帰ってきた。



『…蘭さん、知り合いなんですか?』


『よっこいしょ!や、そんな大それた仲じゃないよ。ちょっと世間話するくらいよ。』


『…そうなんですか。』



蘭が紙袋をテーブルに置き、作業を黙々としている間、神田は先程の老人の言葉が何度も頭に反響していた。



――試されるのはこれから?失敗すれば悲惨な最期になる?


どういう意味だろうか。


神田は老人の与えてくれる機会というのはセシア、もとい結菜に合う機会だとずっと思っていたのだ。


だから実際セシアに会えて、少し仲良くなれて……、やはり2人には運命的な何かがあったのではないか――

…そう少なからず淡い期待を抱いていたのだが。







『――…ちゃん!……真理ちゃん!』


『―…あ、…は、はい!』


難しい顔をし過ぎていたのであろうか。蘭がいつの間にか神田の前に来ていて心配そうに顔を覗き込んでいた。



『大丈夫?どこか具合でも悪い?なんか上の空よ?』


『い、いえ、大丈夫です。』



神田は慌てて笑顔を向けたが、蘭は未だに心配そうにしている。



『そう?…もしかして疲れてるのかもよ。ちょっと休んでいく?サービスするわ。』


『え、いや、すぐ帰りますし…。』



はぐれてしまったセシアのことも心配である。早く帰って誰かに伝えなければ――…と思ったのだが。



『いいじゃないの〜。どうせ誰かが迎えにくるさ。ささ、座って座って!』


『は、はぁ……。』



…確かに変に自分勝手に動くより、此処で待っていた方がいいかもしれない。セシアももしかしたら来るかもしれない。


第一、懐中電灯がないので暗くて無事に自分が帰れるかも怪しい。


そう自分に言い訳しながら、神田は老人が座っていた丸椅子に腰掛けたのであった。




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