それでも、まだ。


――――

『へぇ〜、あのおじいちゃんがねー。』


蘭は驚いたように相槌をうった。






神田は蘭に今までの経緯を話していたのだ。…勿論、先程のことは話してはいない。


目の前のテーブルには神田が食べてしまって空になった器があった。中身はとても甘くて美味しい甘味だった。


…セシアにばれたら恨まれそうな気がとてもするのだが。…いや、本気で。



内心少しドキドキしている神田の膝の上では白猫が丸まって静かに寝息を立てている。

…随分懐かれたようだ。




『私もあんまりあの人については分からないのよ〜。ふらっと来て、ふらっと帰るような人だし。』


蘭は神田の向かい側に座り、頬杖をしながら話した。



『何処に住んでいるとか、聞いたことありますか?』


『いや…、そういえば何も知らないわね。自分のことは、全然話してなかったわ。』


『そうですか……。』



神田はこっそり溜め息をついた。

…やはり、謎に包まれた老人だ。幹部の人達さえも、あの老人のことについては何も掴めていないのだ。



2人の間に少しの沈黙が流れたとき、不意に扉が思いっきり開いた。



『蘭さんこんにちはー!…あ、真理ちゃん発見〜。』



そこにいたのは、なんだか愉しそうな顔をしたレンだった。



『レンさん!どうして此処に?』


『どうしてって…2人からなかなか連絡が来なかったからね。ちょっと心配でさ〜。』



レンはわざとらしく首を竦めて溜め息をしながら答えた。

…とても心配しているようには見えないのだが。



『す、すいません…。ちょっといろいろあって…。セシアとはぐれたゃいました…。』



神田は申し訳なさそうに言った。

するとレンは一瞬きょとんとしたが、すぐに吹き出した。



『アハハハハっ!セシアも?ますます面白いことになるなぁ。』


『え?セシアも、って……?』



神田が聞き返そうとしたとき、いつ取ってきたのか、片手に大量のみたらし団子を持った蘭が神田の言葉を遮った。



『レン、久しぶりね!なんか愉しそうじゃないの〜。』


蘭はみたらし団子を差し出しながらこれまた愉しそうに言った。


『ハハ、ありがとう、蘭さん。…面白いことになりそうなんですよ。』


レンはみたらし団子を次々と口に運びながら嬉々と答えた。

何故喉に詰まらないのかが不思議でたまらない。



『面白いことって?』



そう言うとレンは神田の側に行き、膝の上の白猫を優しく撫でた。



『…蘭さん、この辺りにいる猫って、この子だけ?』


『え?…いや、確か黒猫もいるって聞いたわよ?』



蘭が答えるや否や、レンの口端が釣り上がった。もはや、悪戯っ子のような顔というより、悪人顔である。



…絶対良からぬことを考えている気がする。



神田は一人顔を引き攣らせたのであった。



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