それでも、まだ。
―――――
…迷った。そして逸れた。
セシアは懐中電灯を片手に持ち、一人うなだれていた。
神田がいなくなったあのとき。
目が3個もある猫をみたセシアは、つい咄嗟に逃げてしまった。
…神田が消えた方向と逆の方へ。
断じて怖かったからではない。ただ驚いただけである。…多分。
『もういないよな……?』
セシアは自分が逃げてきた方をじっと見ながら静かに呟いた。
セシアは無線も落としてしまったのだ。
組織には幹部はレンとジルだけがいたはずだが、連絡しようにもできなくなってしまった。しかも地図も持っていないのだ。
『神田………。』
セシアはまたどことなく呟いた。
その声は暗闇に風と共に吸い込まれていくような気がした。
ある程度は闘える自分はまだしも、神田は生身の人間である。もしも何か神田の身に起こったら――…
セシアは背筋が凍った。
そして同時に、自分の中で神田の存在が大きくなっていることに気づき驚いた。
――いつの間に、打ち解けていたのだろう。
自分は、警戒心が強い方だと思っていた。レンやジルでさえ、打ち解けるのに1ヶ月はかかったのだ。
それなのに神田は…
セシアは自嘲を漏らした。
そしてぐっと刀の柄を握ると、暗闇に光を照らした。
――早く捜さなければ。
そう思って歩き出そうとしたとき。
『……………。』
『………にゃー!』
…よく見るんだ自分。これは幻だ。ほら目を擦ってよく見たら、きっと消えているはずさ――…
『……………。』
『にゃ?』
あれ?幻が続いてる?なんかまだ3つ目の黒猫がいたような…。いやいや気のせい気のせい…
『……にゃー!!』
『……ぎゃあぁぁぁぁ!!』
――ごめん神田。
嘘をつきました。
……やっぱり怖いです。
セシアは更に墓場の奥の方へ駆け出したのであった。
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