それでも、まだ。


セシアは力を抜いた。そしてそれと同時に、ジルも手を離した。



『…ジルさん、捜しに来てくれたんですか?』



セシアが少し冗談じみて言うと、ジルは黙って無線をセシアの目の前に突き出した。


…セシアが落とした無線だ。



『あ、はは〜。』



ジルの視線が痛い。セシアが渇いた笑いを漏らすと、ジルはふぅと溜め息をついた。




『繋がらないと思ったら、落としていたのか。』



そう言うジルは少し怒っているようだったが、表情は心なしか安堵しているように見えた。



なんだかんだでやはり心配してくれていたのだろう。



『何処へ行こうとした?漆黒の森には入るなと言っただろう。』



ジルはセシアに無線を渡しながら強い口調で言った。怒っていた理由は、むしろ漆黒の森にまた入ろうとしたことの方が大きいのかもしれない。



『……マダムが、いたんです。』



セシアがぽつりと言うと、ジルは驚いた顔をした。だが、すぐに否定した。



『…それはないだろう。』



『…え?』


セシアはきょとんとしてジルを見た。



『俺達は、マダムと入れ違いで組織を出たんだ。だからマダムは組織にいるはずだ。マダムも組織にいると言ったしな。』


ジルは真剣な顔つきで言った。とても嘘をついているようには見えなかった。



――見間違えたのだろうか。でも、それならば尚更誰がいたのか。確かに誰かがあそこに――…



セシアが森の奥を見ながら考えていると、ジルがきょろきょろしながら口を開いた。



『……神田は?』



その言葉に、セシアはビクリと肩を震わした。


そしてゆっくりとジルの方を振り返った。ジル自身も、なんだか表情が強張っている。




『……そ、それが――…。』




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