時を止めるキスを
私の持論としては、香りは髪に匹敵するほど女の命。それをわざわざ残すくらいだから、相手の女は私への対抗心に燃えているだろう。
さらに彼はいつの間にか機種変更をしていて、黒から白へと変わっていた新型のスマートフォンを片時も離そうとしない。
私の電話には全く出てくれないクセに。電話が掛かって来ると慌てて窓を開け、あまりの狭さにとてもベランダとも言えないそこに出てしまう。……聞き耳を立てた私が一歩でも窓に近づこうものなら、軽蔑の眼差しまで向けてくるほどだ。
ここまで言えば、扱いは散々なものと分かるだろうが、極めつけは私に対する態度の変化。これはもう、倦怠期なんて次元ではない。
一緒にいる時だって、コッチが話し掛ければ相槌は打つけど、ひどく面倒そうな溜め息を吐かれることもある。
「何なの、その態度!」
「あーうっぜ。俺、もう寝るわ」
「はあ!?」
さすがの私も我慢ならずに窘めるが、まさに取りつく島もない。久々に会えたというのに、エッチも不要と言わんばかりに狭いベッドで不貞寝されてしまった。
当然ながら、イライラ状態のまま彼の眠るベッドに潜り込むのは癪である。まして可愛げのない私が折れるはずもなく、リビングにある二人掛けソファで、ひとりブランケットを被って惰眠を貪る道を選ぶ始末。
彼を置き去りに自宅へ帰ることも考えたのだが、真夜中にすごすごと帰る自分の姿を想像したらあまりに惨めで、それだけは嫌だったのだ。