時を止めるキスを
もう少しシーツを引き上げた瞬間、彼がゴロンと寝返りを打ったので同時に反転した私。
起こしたか、とそろり遠慮がちに視線を向ける。だが、変わらず規則的な寝息で目を伏せていた男に安堵した。
こうして息を潜めているのも、やけに気遣ってしまうのも――すべてが、この男のせいなのに。
普段は綺麗に流してある固そうな黒髪も、さすがに“激しい運動後”では乱れていた。
プライベートが見えないと評判の謎深き男だが、意外なことに“秘書室以外”の女子社員には人気がある。
この写真を携帯にでも一枚収めたら、きっと奇特なファンに高く売れるだろう。……危険な橋は絶対に渡らないけども。
「それこそバカじゃん、私」と、くすりと小さく笑ってしまう。
そんな物を晒せば、この男のプライベートを知っていると自ら公言するようなものだから……。