時を止めるキスを
初めて夜を明かした時は、1時間以上も早くドラゴンの自宅から逃げようとしたのに。
このまま帰ると口にするその度、苦しさにも似た快楽が待っていた。
折れた私は翌朝、先に起きて静かに脱出を計っていたが、シャワーを浴び終えたばかりの男と対面する羽目になった。
誰かと起き抜けに顔を合わせて惨めに感じたのは、きっとあれが初めて。
いつものメガネを装着して上司オーラを纏った彼に、私は裸で“お、はよう、ございます”と部下の顔でたどたどしい挨拶をするのが精一杯だった。
もしもあの時、“おはよう”と少しでも笑ってくれたら、と少なからず期待した?
いや、それはない。それだと好きになっているみたいじゃない。……絶対にありえないな。
“違う”と小さく頭を振って邪な考えを払拭しつつも、そんな男の腕の中にいる私はどうかしている。