時を止めるキスを


考えただけでじつに情けない。最近の私は、恋愛してるって言えるのだろうか?――27歳っていえば、結婚と仕事の狭間に揺れてもおかしくない。


友人や同僚から結婚式の招待状を貰う度、この順番が自分に回ってくることは当分なさそうだと思うからひどく悲しいもの。


いや、待てよ。結婚などという前に、粗大ごみのようにポイ捨てされるのはもう時間の問題かもしれないな……。


 * * *



「浅川ぁああ!」

「はっ、はい!何でしょうか」

昼下がりの空模様は眠気を誘うから不思議なもの。そんな穏やかな空気を一瞬でぶち壊す怒声が響き渡った場所、それは秘書室。


恐る恐る立ち上がったのち、イライラ発信源の主のもとへ慌てて向かったのは、私こと浅川 藍凪(あさかわ・あいな)だ。


この先の展開が見え見えなだけに。行きたくない、このままエスケープしたい、ああ最悪だ、という思いが心を埋め尽くしている。


重苦しさ満載の雰囲気が立ち込める中、最奥の中央にどんと構えるデスクの前に立つと、一礼してから口を開いた。


「チーフ、何か」

「何かあるから呼んだに決まってんだろうが!」

「……失礼しました」


これは何を尋ねようが、火に油を注ぐだけ。この部屋に居る全員がきっと、自分に火の粉が被らないようと静かに祈っているだろう。


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