時を止めるキスを


そもそもの話。すっかり自分のことに必死だった私は、誘いに乗る前に尋ねるのを忘れていた。


——今も私を離さないこの傲慢な男には、実は彼女いるという疑惑が浮上しているのに。


そして“俺の家にするか”と言われた夜を、私は今後ずっと忘れられないだろう……。


あの日、私たちはタクシーで向かった男の家(目を見張るほどの高級マンションだった)に着いて早々、誘われた寝室で欲に任せてセックスをした。


だけど、情事後にバス・ルームを借りた時、私はあるものを見つけてしまった。


それは女性用の基礎化粧品で、すべてレギュラー・サイズのもの。——そこでピンときた。


その後は失礼を承知で室内をチラチラと観察したのだが、そこでも辛辣男とはおよそ無縁であろう可愛らしい小物類をアチコチで発見。


やはり、この男には本命がいると悟った。そう決定的づけるものまで見つけた時は、このまま探偵になれそうだと感じたほど。



『今度は来週の月曜日だからお迎えよろしくね。——愛未』

丁寧に名前まで書かれたホワイト・ボードを玄関先で発見したが最後。


さてあの冷徹な男は、これらの物的証拠を前にどう弁明するのか見てみたい気もするが。


< 40 / 97 >

この作品をシェア

pagetop