時を止めるキスを
気持ちの良いその空間を邪魔されたくなくて無視していたのに、その声音がどんどん大きくなる。
「浅川ぁああああ!」
「はっ!?はぃいいい!」
それはスマホから流れてくるはずのアラームではなく、この世で最も耳障りな怒鳴り声だった。
お陰で目はパッチリ開き、その凄まじい騒音の主と視線が重なった。どうやら私は、あのまま再び眠りに落ちていたらしい。
「お、はよーございまぁす……」
あはは、と苦笑混じりにシーツを手繰り寄せながら言う。スッピン以上に寝顔は酷かったに違いない。
「やっと起きたか。アラーム鳴っても全然起きねえし」
「す、みません」
「この寝起きの悪さで遅刻しねえんだから褒めてやる」
「……どうも」
嫌味が服着たような男もとい、チーフの顔つきは早朝から険しい。
この面持ちはきっと、彼の部下の面々が朝イチに拝みたくない代物だろう。該当者の私だって同じだから。