時を止めるキスを


気持ちの良いその空間を邪魔されたくなくて無視していたのに、その声音がどんどん大きくなる。


「浅川ぁああああ!」

「はっ!?はぃいいい!」

それはスマホから流れてくるはずのアラームではなく、この世で最も耳障りな怒鳴り声だった。


お陰で目はパッチリ開き、その凄まじい騒音の主と視線が重なった。どうやら私は、あのまま再び眠りに落ちていたらしい。


「お、はよーございまぁす……」

あはは、と苦笑混じりにシーツを手繰り寄せながら言う。スッピン以上に寝顔は酷かったに違いない。


「やっと起きたか。アラーム鳴っても全然起きねえし」

「す、みません」

「この寝起きの悪さで遅刻しねえんだから褒めてやる」

「……どうも」

嫌味が服着たような男もとい、チーフの顔つきは早朝から険しい。


この面持ちはきっと、彼の部下の面々が朝イチに拝みたくない代物だろう。該当者の私だって同じだから。


< 42 / 97 >

この作品をシェア

pagetop