時を止めるキスを
次の約束が提示されなければ、甘い言葉だってかけても貰えない。これが後腐れなきセフレ関係の現実。
それでもムカつく男が、とっくに私の心を占領し始めていることは絶対に言えない……。
面倒ゴトに巻き込まれたくないタイプなのに、心は駄々をこねているようにあの男を欲している。
——知らなければ良かった。……ごくたまに見せる優しさとか、寝顔の可愛さなんて。
熱いシャワーが肌を絶え間なく打ちつける中、やるせない気持ちのまま左手の薬指を一瞥する。
そこにはタカシから貰った指輪が未だに主張しており、その様はもはや滑稽でしかない。
でも、やっとコレを“外さない”でいた理由が分かった。
――ドラゴンが楽めるツールがなければ獲物でなくなる。つまり、誘われなくなってしまうはずだから。
彼にとって都合の良い女だと言い訳をして、この2週間ずっと彼に抱かれるのを望んでいたのは私の方だったのか。
見事に元彼と同じ轍(わだち)を踏んで、今度は私があの男の大切な彼女まで苦しめているのに……。