時を止めるキスを
チーフの話から察するに、今日私が朝イチで彼女に手土産の購入を依頼した件についてお怒りなのだろう。
「ばかやろうっ!
笹川常務にオマエは一体何を聞いていた!?」
そう暢気に考えていた私に対し、温情など微塵もない叱咤が室内に響く。ビクッと肩を揺らしながらも、朝の出来事が走馬灯のように蘇っていく。
手土産は会社はもとより、持参主のセンスの見せ所。つまり、上司の印象を良く見せられるかにかかっていたりするもの。
常務の第2秘書を務めている私は新人である坂井さんに、季節がら某高級店のゼリーを購入するようにお願いしていた。
いや、それがそもそもの間違いだった。数日前に常務から希望などを伺った時、そこで私は確かに了承をしていたのだから。
“品物は君たちに任せるが、果物アレルギーのある方だからその点にはくれぐれも気をつけてくれ”というひと言に……。
「たまたま常務が先方のところに向かう直前、包装紙から中身に気づいて下さって事なきを得たが、“浅川なら”分かるよな?
もしそのまま手渡していたら、危険を知り得ながら贈るというどれほど無礼な行為となっていたかくらいは」
「もっ、申し訳ございません!」
怒気ではなく、淡々とした口調に変わったものだからなおさら胸に突き刺さる。
さらには真っ直ぐで冷たい瞳にも射ぬかれ、立ち尽くすだけの私はゾクリと身震いした。
それを隠すようにひたすら頭を下げて謝罪すれば、さらに情けなさが自身を取り巻いていくよう。