時を止めるキスを
無言でその場を離れて行ったドラゴンに安堵しながら、静かに椅子に腰を下ろした。
彼から預かった書類の数々を脇に置き、深呼吸をしてぐるぐる駆け巡る雑念を振り払う。
そうしてノートPCで作業を再開したのも束の間、スマホが短い着信音でメール受信を告げる。
誰からなのかがすぐに分かる専用着信音。ドクドクと早まる鼓動を止められないまま、無言でスマホを手にする。
画面をタップして受信内容を目にした瞬間、泣かないように歯を食い縛る自分がいた。
“21時までそこに残れ”
たったこれだけの素っ気ない文章なのに、送信してきた相手の名前で嬉しさを感じるなんてどうかしている。
“分かりました”と短く了承のレスをすると、これまで薬指で主張していたリングに触れた。
“終わりにしよう”と決意し、ついに訪れたドラゴンからのお誘い。——これでもう、ただの上司と部下の関係に戻れるように……。