時を止めるキスを
多分、彼女は気づいているはず。
こちらを探るような眼が、昨日のお昼時と同じだから。
そもそも直属の後輩の業務内容は知り得ているのだから、今日は余裕があると分かっているだろう。
私は必死に取り繕って、「……いいえ」と答えたものの、やっぱりぎこちなかったかもしれない。
「手伝うことある?……って、ないよね」
何か言いたそうな表情で、あえて言葉足らずに自嘲笑いを浮かべる彼女に申し訳なくなった。
「本当にすみません。——もう大丈夫ですから、柚さんはどうかゆっくり休んで下さい」
「そう?分かったわ。じゃあお先に。……頑張ってね」
「……はい、ありがとうございます。お疲れさまでした」
ちなみに今日の退勤処理はしてある。残務も20時までにはとっくに済ませていたのだから。
最後の“頑張ってね”にしても、チーフとの一件に蹴りをつけることに対してのエールのはず。
これが不安で一杯だった心を、どれほど落ち着けてくれたか知れない。
やっぱり、本質を見抜くのも朝飯前な柚さんは凄い。同性から憧れられるのも当然だ。