時を止めるキスを
笑顔を見せて踵を返す彼女に一礼し、静寂に包まれる秘書室でひとり静かに目を瞑って考えた。
タカシにフラれてから、あっという間に過ぎた1ヶ月。いや、別の男に囚われていた時間はやけに高速なものに感じられた。
もう私の心を占めているのはタカシじゃない。今はチーフを意識して止まない自分がいるなんて、少し前には想像もつかなかった。
でも、この感情を育む限り、タカシと同じ轍を踏んでしまう。所詮、身勝手な想いだというのに。
だから、今夜はこの1ヶ月を幻に変えてしまおう。ーーチーフを好きだった儚い時間を止めるためも。
その場限りの優しさとは分かっていたのに。ドラゴンがただ欲しくて、ずっと填めていた薬指のリングを静かに抜き取った。
雑然としたデスクに置くと、異質な光を放つそれがやけに虚しく映ってしまう。
重みなんて感じないほどに馴染んでいたリングがなくなり、やっぱり違和感を覚えるけれどきっとすぐに慣れるはず。
さようならを言うのが辛いと、泣いたり口にする権利は私にはないから……。