時を止めるキスを
逃げるように腕時計を確認すれば、タイム・リミットまであと10分強といったところ。
こんな時のカウント・ダウンを待つ瞬間は、やけに長く感じてしまうから不思議なもの。
スリープ状態だったノートPCをシャット・ダウンしてから、時間を持て余すようにコーヒーを求めて席をあとにする。
そのまま秘書室内にある給湯室に向かうと、作動中のコーヒー・サーバーの前に立った。
いつものようにボタンを押すと、機械が音を立てて作動し始めた。
待っていると熱々のエスプレッソが抽出され、容器を熱くて真っ黒な液体が芳醇な香りをもって埋めていく。
停止音とともにそのカップを手にし、湯気の上がるそれを冷ますようにふうと息を吐き出す。そして容器を傾けると、熱々の液体に口つけた。
苦みの強いエスプレッソは、職場でも眠気覚ましにマストな飲み物のひとつ。
同僚の円佳は、夜にはお茶も口に出来ないほどカフェインには敏感な体質をしている。
私といえば、仕事中にちょっとでも疲れを感じるとコーヒーが飲みたくなるが、それにも飽き足らず、仕事終わりにまで遅くまで営業するカフェに向かってしまうタイプだ。