時を止めるキスを
「なんで?」
険しい面持ちのチーフは眉根を寄せて、短いひと言を投げ掛けてくる。
「やっと指輪も外せたし……、ほんとに私、チーフには感謝してます」
グッと唇を噛み締めながら、必死で笑顔を作った私はあえて彼に薬指を見せつけた。
ここで泣いても、何も生まれるものはないと分かっていた。これが私なりのけじめのつけ方と。
私たちの始まりが秘書室だったんだから、終わりを迎えるのもここが良い。
むしろ此処でなければ、また欲に興じた虚しいセックスが付き纏ってしまうから。
もう、“ふたりの不確かな時間”から目覚める時だ。
——愚かな自分の感情が高ぶる前に一刻も早く、貴方の方から切り捨てて欲しい……。