Blood Smell
夜9時過ぎ
私は窓を開けた


今日は三日月


先生
早く来ないかなぁ


ギプスのとれた足を少し引きずりながらベッドに座った時だった


先生とは違う
甘いむせかえるようなムスクの臭いが窓辺から流れ込む



窓辺に優雅にたたずんでいたのは


「ダ…ン?」



あの日
エリザベスに殺されかけたときから姿を消していた


先生の友達…



「やぁ、冴ちゃん。
こんな三日月の夜に窓を開けっぱなしにしておくのは、危ないよ?」


ゆっくりと私に歩み寄る
マネキンのような完璧な肉体と怪しい瞳



「どうして…ここに?」


恐怖を感じられないように毅然と声を出す


もう少しすれば先生が来てくれる


それまで
なんとかしないと…


「そんなに警戒しなくても大丈夫だよ。
もう、冴ちゃんに危害を加えるような真似はしないから。

ただ…―。」



グイッと顎を持ち上げられて目線を合わされる


そして
瞳の中に炎が灯った


「我々、純潔のヴァンパァイアは例え、混血であろうと我が高貴な種族とお前のような下級動物が交わることは決して許さない。」



背中を一筋の汗が流れ落ちた


「これは警告なんだよ?冴ちゃん。もしこのまま、シュルドと結ばれるようなことがあれば…
君は命を落とす。」



その瞳に少しの偽りもなかった

< 122 / 303 >

この作品をシェア

pagetop