あの日
第2章
そしてわかった。
 「そうか、悲しい時は泣けばいいんだ」
 俺はあれから何もする気になれなかった。
 中学校の頃だった。
 何気なく散歩をしていると、とつぜん顔の前をボールが通過した。
 「野球ボール?」
 「おーい、ボールとってくれよ~」
 声が聞こえた。
 俺は、ボールを投げ返した。智の放ったボールは80メートル先のキャッチャーのミットに吸い込まれた。
 みんな、目が点になっていた。
 次の瞬間、グランドから1人のキャプテンらしき者が全速力で走ってきた。
 気づけば、俺は体をゆすられていた。
 「すげーなお前!名前は?」
 「木座希・・・智。」
 「智か!いい名前だ。俺は鈴木幸次だ」 
 (あつかましい奴だな)
 俺と幸次との出会いだった。
 「いっしょに野球しようぜ!」
 (野球?)
 当然やる気などなかった。
 しかし、強引に連れて行かれた。
 「おっ!おい!」
 気づけばマウンドに立っていた。
 「よし、おもいきりなげろ!」
 「なんでこうなるんだよ、もうどうにでもなれ!」
 智の手から放たれたボールは、幸次のかまえたミットに吸い込まれていった。
 バッターのバットは空を切った。
 (ん?なんだこの気持ち?楽しい!)
 長い間眠っていた、智の楽しい!という気持ちがめざめた。
 気づけば試合が終わっていた。
 (そういえば、優香の大好きなスポーツが野球だった。優香がこの感じを思い出さすために、導いてくれたのか)
 智は次の日から、母校の野球グランドに立っていた。 
 
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