ただ今、政略結婚中!
「痛むのか?」


唇の端に指を動かしたのを見ていた隼人さんが聞いてくる。


「少し……」


あの男を思い出して、身体が震えてきた。


あの男の触れた胸、口に含まれた時の感覚がよみがえり小さく悲鳴をあげる。


マンションに帰り道、レイプされそうになったことよりも、隼人さんとエステルのことが気になって頭の片隅に追いやれた。


けれど今思い出すと、自分の身体がひどく汚い気がしてバスルームへ駆け込みたくなる。


ベッドから転がるように降りたのを見て隼人さんが口を開く。


「いったい何がしたいんだ!?」


「シャ、シャワーを――」
「熱があるんだぞ!?」


ベッドから離れようとする私の腕をつかんだ隼人さんは引き戻そうとする。


「離してっ!」


強く言った後、私は泣き崩れてしまった。


その姿に隼人さんは私の心中を察してくれたようで、「5分以内で切り上げなければ連れ戻しに行く」と言ってシャワールームまで連れて行ってくれた。


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