ただ今、政略結婚中!
みんなに注目されているのを承知しているであろうエステルは、私の隣に立つ隼人さんの首に腕を回し抱きつき頬に唇を寄せた。


『なぜこんな所まで来た?』


『怒らないでね?貴方に会いたかったの』


『ストーカー並みだな。亜希には絶対に近づくな』


『元恋人に対してそんな言い方、ひどすぎるわ』


そんな会話が交わされていたとも知らずに、私はあっけにとられ声も出せない。


そんなふたりを見て、胸の痛みは身体を引き裂くほどで息が出来ないほど苦しくなった。


隼人さんはすぐにエステルを自分から引き離す。


彼女はグリーンの瞳を隼人さんから私に向けた。


「亜希さん、この前はごめんなさい。本当に何も知らなかったの」


エステルは日本語で言った。


潤んだ瞳と艶やかな唇、トップモデルの容姿でしおらしく謝られたら聖人君子でもない限り許してしまうだろう。


だけど、私は返事が出来なかった。


突然のエステルの登場に、不安が胸にじんわりと広がっていたから。



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