ただ今、政略結婚中!
「ええ……亜希さんが可哀想で見ていられません。酷なようですが、隼人さんと別れた方がいいですよ。これ以上傷つかないうちに」


ジョンから思いがけない言葉を聞いて、俯いていた私はハッと顔を上げた。


「ジョン……」


「隼人さんはエステルを愛しているから、別荘でのことも笑って済まされるんです」


エステルを愛している……そんなの、わかりきっている。


「亜希さん……?」


私が何も言えないでいると、ジョンは顔を覗きこむようにして見た。


目じりに光る涙を見つけると、ジョンはハンカチで拭ってくれた。


「私では……ダメなんでしょうか……」


「亜希さんは十分に魅力的ですが、エステルは愛される域を超える存在ですから……」


愛される域を超える存在……。


「……部屋に戻ります」


私が腰を上げると、ジョンも立ち上がり腕を支えてくれた。


「部屋まで送って行きますよ」


「いいえ、大丈夫です。おやすみなさい」


ジョンの腕を振り切るようにしてその場を離れた。


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