ただ今、政略結婚中！
嫌だ、隼人さんと話をしたくないっ！


隼人さんから別れの言葉が聞きたくなくて、ビーチに向かっていた足はホテルの正面玄関に向きを変えていた。


ホテルのエントランスから通りに出ると、タクシーから日本語が聞こえた。


「おじょーさん、どこへ行きますか？」


私は足を止めて、片言の日本語を話す運転手を見た。


浅黒い顔をして、人が良さそうな笑顔を向けている。


「ココハ、ナニモナイ。ミヤゲウッテイルトコロヘ、ツレテイクヨ」


どこでも良かった。


でもせっかくメキシコに来たのだからお土産屋さんものぞきたいなと思う。


時間をつぶすのならそれも良い考えに思えてくる。


「そこへ行ってください」


日本語が話せることで安心して、すんなりタクシーに乗り込んだ。


乗り込む時、隼人さんの私を呼ぶ声が聞こえた気がした。


「早く出して！」


隼人さんにつかまりたくなかった。


< 249 / 566 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop