ただ今、政略結婚中!
それからが不安の連続で生きた心地がしなかった。


タクシーから降りた途端に、バーの前からいなくなっていた薄汚い格好の男が突然現れ、私の腕をつかみ薄気味悪い笑みを浮かべながらバーの中へ連れ込もうとした。


片方の手はお酒の瓶を持っている。


息がお酒臭くて顔を背けるのがやっとだった。


それでも火事場の馬鹿力と言うものが出せたのか、男の手をやっと振り払い逃げ出した。


駆けだす私を追いかけてくる男。


怖くて駆ける足が震えていたけれど、掴まったらとんでもない目に合う。


脇目も振らず、全速力で走りなんとか人通りの多い通りに出られたときには肩から息を吐きホッと安堵した。


「っ……ハア、ハア、ハア……殺されるかと思った……」


後ろを振り向きながら、男の姿が見えないことを確認し立ち止まる。


「ここはどこなんだろう」


先ほどの場所よりは人通りが多いけれど、観光客は見当たらない。


どうしよう……やばいよね……早くタクシー見つけないと。


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