ただ今、政略結婚中!
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バタン!


乱暴にホテルの部屋のドアを開けて中へ入っていく隼人さんの後姿を見て、部屋の中に入ったけれど足が止まる。


ついてこない気配に気づき振り向いた隼人さんは、怖い顔をして私を見た。


タクシーに乗っても一言も話さず、隼人さんの沈黙が怖くて顔を見られなかった。


今、恐る恐る隼人さんの顔を見ると、彼の顔を見て息を呑んだ。


「血が!」


口の横から拭ったような血の跡が、殴られて赤くなった頬についている。


思わず指先を伸ばすと、手首をギュッと痛いくらいに掴まれた。


その痛さに声も出ない。


「どうしてなにも言わずに出て行ったんだ!あと少し遅ければ大変なことになっていたんだぞ!」


警官がやってきて事情を聞かれ、その場で解放されるとタクシーを拾いホテルまで戻ってきた。


心配をかけてしまったのだから、きつく怒鳴られるのは当たり前だ。


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