ただ今、政略結婚中!
急いで隼人さんから離れ、元の位置に戻して彼を見る。


「あ、あの……」


もしかして私が邪魔で、眠れなかった?


そう聞こうとした時、隼人さんが口を開いた。


「気持ち良さそうだったな」


「え、……はい おかげさまで」


私の言葉が可笑しかったのか、隼人さんはその端整な顔を崩して笑った。


******


車がホテルに着いたのは月や星が空に瞬いている時刻だった。


再び隼人さんに抱きかかえられながらロビーを行く私の耳に、甲高い女の人の声が聞こえてきた。


『いったいどこへ行ってたの!?』


声のした方へ顔を向けると、エステルが嫉妬に燃えた瞳で私達を交互に見ている。


降ろしてと言おうとした時、エステルがヒステリック気味に叫ぶ。


『ハヤト!どうしてその女を抱いているのよ!』


『ヒールが折れたんだ。それに彼女はその女ではない。妻だ』


ふたりの間で戸惑ってしまう。


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