ただ今、政略結婚中!
「隼人さん、降ろしてください……」


エステルはひと目を引いてしまい、ロビーにいる人々の目がすべて私たちに向いているようだ。


「動くな」


いつもより低い声で隼人さんに言われて動くのを止めた。


『何度も電話したのに!』


エステルの瞳に涙が浮かんでいる。


「出る必要がないからだ」


隼人さんは日本語で言ったせいで、私は何のことかわかった。


今日の午後、隼人さんの携帯が頻繁に振動していたのを知っている。


そのたびに携帯を見てはポケットに戻していた。


彼女からだったんだ。


仕事の電話が入るかもしれないから電源が切れなかったんだね。


でもどうして出なかったの?


恋人に対して冷たい気がする。


もしかして……ふたりはうまく行っていないの?


期待してしまいそうになる。





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