ただ今、政略結婚中!
『休暇を取って来たのよ?時間を割いてくれてもいいでしょう!?』


エステルは艶やかな下唇を噛み、グリーンの瞳で隼人さんを見ている。


『ねえ、ハヤト――』
『後で電話する』


隼人さんは英語に切り替えて言うと、エレベーターに向かって歩き始めた。


後で電話する?


その言葉ぐらいはわかる。


私に聞かれたくないんだ……。


英語で話せば私にわかるわけないのに。


隼人さんの肩越しに彼女を見ると、ものすごい目で睨まれてしまい視線を逸らしてしまう。


なんて弱い立場の妻なんだろう……。


ううん、妻なんて実感は全くないけれど……。


隼人さんのことを考えると胸が痛くなる。


痛くて痛くて……こらえきれなくなった時、私は隼人さんに今後のことをどうするか話す。


別れるか……このまま愛されずに妻として残るか……。


隼人さんの腕の中で、目頭が熱くなってそっと瞼を閉じた。





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