ただ今、政略結婚中!
リビングルームを出てドアが閉まると、腰に置かれた手が外された。


そして隼人さんは無言のまま先を歩き、玄関を出る。


お屋敷のエントランスから私達の家まで石畳が続き、両サイドにはきれいに手入れされた芝生。


その通路は雨が降っても傘をささなくて済むように新居まで透明な屋根が続いている。


雨に濡れて鮮やかな緑。


こんなところで寝そべって本でも読みたいな。


玄関に近い場所でそんなことが出来るわけがないけど、小さい頃にお邪魔した時、屋敷の裏庭にたしか広い芝生のスペースがあったはずと、うろ覚えな記憶がよみがえる。


今もあるのだろうか……。


そんなことを考えながら、前を歩く隼人さんを考えないようにしていた。


20メートルほど行くと、平屋建ての家に到着する。


鍵を渡されていたようで、隼人さんはポケットから取り出すと鍵穴に差し込み開けた。


外は憂鬱な雨模様なのに、特殊ガラスが建物の大部分を占めているせいで部屋の中は明るい。


特殊ガラスは、外から中が見えない不思議なガラス。


最初見た時は、ぎょっとなった。


これではプライバシーも何もないじゃないかと。


でも、外から見えないのがわかるとホッと肩を撫で下ろしたのだった。


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