ただ今、政略結婚中!
「座って」


エステルは私が先ほどまで座っていたイスの対面のソファに腰掛けた。


長い脚を斜めに組むと、私を見上げる。


「早く座りなさいな。話があるの」


ゴールドにネイルされた指をひらっとさせ、先ほど私が座っていたイスを示す。


嫌な予感がして、話したくなかった。


「私、これから用事があるんです」


立ったまま告げると、彼女はクスッと笑みを漏らす。


「そのくらい知っているわ。クルーズでしょう?貴方を楽しませるにはそれくらいがちょうどいいわ」


そう言って左手に巻かれた金の何連ものバングルの時計をちらっと見て言う。


「あなたがさっさとしてくれたら、話なんて10分で終わるわ」


どうしても私を行かせてくれないらしい。


私はあきらめてイスに座った。


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