ただ今、政略結婚中!
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エグゼクティブスイートのドアをそっと開けて、部屋の中に隼人さんがいない事を確認すると、ぐったりとソファに身を沈める。


頭の中がぐちゃぐちゃで、今すぐ大声を上げて泣きたかった。


膝に抱えた本に、もう一度、目を落とす。


小さい頃から特定の人が嫌いと言うことは、今までなかった。


学生の頃は中立の立場を保ち、みんなの中和剤的存在で、嫌われたことも、嫌ったこともない。


初めて彼女を嫌い、憎しみを感じた。


酷い人……。


最低なことをされても、心の片隅では彼女に同情していたのに……こんなの酷い……。


目頭が熱くなり、頬に涙が伝わり本に落ちる。


ハッとして、急いで本に落ちた涙を手でごしごしと拭く。


隼人さんの目の届かない所に隠さないと……。


ソファから立ち上がると、クローゼットに足を向けた。


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