ただ今、政略結婚中!
「隼人さんが、泣かせるから……いけないんです……」


泣きじゃくりながら、言うと後頭部に手をあててそっと胸に引き寄せてくれた。


磨かれた甲板に足音が聞こえてきた。


『お食事のご用意が出来ました』


メキシコ人の男性が隼人さんに告げている。


「食事の用意が出来たらしい。行こう」


後頭部から背中に手を移動させると、私を後部甲板までエスコートしてくれる。


隼人さんに支えられながらで良かった。


風があるせいか、船が時折大きく揺れる。


高いヒールのパンプスを履いているから、足元が心許ない。


後部甲板に足を踏み入れると、再び感嘆の声をあげずにはいられなかった。


白いリネンのテーブルクロスの中央に、ロウソクの燭台、食事の邪魔にならないように気配りされた赤いバラがロマンチックな雰囲気を醸し出していた。


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