ただ今、政略結婚中!
後部甲板は風が強い時はガラスで閉じられるので、ロウソクに火を灯しても風で消えることがない。


こんな配慮は……クルーズ船が?それとも……何度も経験している隼人さんが演出しているの?


前者あって欲しい。


でも……後者だとしたら……と思うと、胸がぎゅうっと掴まれるように痛くなった。


なぜなら、エステルと過ごしたであろう日々が重なってしまうから。


給仕は男性で、姿勢正しくシャンパンを丈の長いグラスに注いでいく。


注ぎ終わると、一礼して私達だけになった。


「乾杯しよう」


隼人さんはグラスを持ち上げて掲げてみせる。


少し首を傾け柔らかい笑みがロウソクの灯りに照らされている。


すべてがさまになっていて、うっとりと見つめてしまいそう。


「亜希?」


「えっ?あ、はい」


グラスの脚を持ち、そっと隼人さんのグラスに合わせた。


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