ただ今、政略結婚中!
服に着替えて軽くお化粧をすると、言われた時間になってしまった。


部屋を出て、隣の1208号室のチャイムを押す。


ドアが開いて、今日も完璧なお化粧を施した彼女は、にっこり笑って私を招き入れた。


部屋の中へ入ると、リビングの中央にブランドのスーツケースが2つ置かれていた。


「これからパリに飛ばなくてはならなくなったの。それで、考えはまとまったかしら?」


「そんなにすぐに決められません」


「……そうよね、決められるわけないのはわかるわ。でも、貴方は彼の元から立ち去るしかないの。そうしなければ彼は不幸になるのだから」


「時間が欲しいんです」


まだ何も決められていない。


エステルはこれ見よがしに深いため息を吐いて肩をすくめる。


「いいわ。ニューヨークに戻ってから電話をちょうだい」


机の上にあるメモ帳に番号を書いて一枚はがすと、私に差し出す。


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