ただ今、政略結婚中!
「着いたら連絡くれ」


「ん、着いたら電話するね」


隼人さんの腕から出ると、にっこり笑顔を作る。


心の中は泣いていた。


もう、会えない……。


会っちゃいけないんだ……。


隼人さんの視線を背中に感じながら、歩き始めた。


歩く足が小刻みに震える。


何度、エステルの書いた本のことを話そうと思っただろう……。


話せば別れないと言ってくれるに違いない。


だけど、そうすれば大変なことになる。


隼人さんばかりか、紫藤不動産にも影響が及ぼすかもしれない。


そう思ったら、言えなかった。


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