ただ今、政略結婚中!
『ミスター・ケイフォード、このお嬢さんはミスター・シトウの奥様でしょうか?』


1号棟のドアマンと同じ制服を着た男性がジョンに話しかける。


『ええ。そうです』


『良かった。奥様がいらしたらドアを開けるように承っていますので』


会話は早口に聞こえて、所々の単語しかわからない私はロビーの中を見廻した。


まるでホテルみたいなロビー。


マホガニーのデスクの向こうにはスーツを着た男性が立っている。


「紫藤さん……あー、お名前を聞いてもよろしいですか?」


「は、はい。亜希です」


「では、亜希さんとお呼びしてもかまいませんか?」


別にさん付けだし、そのくらいなら問題はないよね。


「はい」


「僕もこのタワーに住んでいるんですよ」


それでドアマンさんと親しげだったんだ。納得。


「彼はヘンリーです。彼に付いて行って下さい。ドアを開けてくれます」


「はい。いろいろとありがとうございました」


彼が現れなかったらここに着けなかったかもしれない。


感謝の意味を込めて、深くお辞儀した。


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