きみとぼくの、失われた時間
<03>「ずっと、そう、ずっと」
*
遠藤はアパートに住居を置いていた。
結婚していた当時はマンション暮らしだったそうだけど、離婚後、アパート暮らしに乗り換えたらしい。
アパートっていっても、新築ほやほやの三階建アパートでめちゃくちゃ綺麗。西洋風のアパートはとてもお洒落チックだった。
というかメルヘンチックだ。
階段の手すりからして先端がくるんとカールしているという凝りよう。
しかも螺旋階段ときた。なんとも建築家の性格が出ている。
「お前に似合わないアパートだな」おちゃらけたら、「うるせぇよ」不機嫌に返された。自覚はあるようだ。
遠藤の部屋は三階にあった。
リーマンと一緒に鉄板板のような薄手の螺旋階段を上って、吹きぬけた廊下を歩く俺は外から見える景色に足を止める。
三階から見える景色は光ばっか。
主にマンションの光が外界に零れている。
点々と発光している丸い光はまるで、でっかい蛍の光のよう。
何してるんだという声で歩みを再開する俺は、急いで遠藤の後を追い駆けた。
扉を半開きにして待ってくれている遠藤に片手を出して、俺は部屋にお邪魔させてもらう。
照明が点けられる玄関はがらんとしていた。
秋本の家の玄関はヒールやら、ブーツやら、サンダルやらでごちゃごちゃしていたけど、遠藤の家の玄関は必要最低限の物しか置いていないみたい。
男女のファッション意識の違いを見せられたような気分になった。
だけど片付いた玄関と違ってリビングは結構、散らかっていた。
四隅に山積みされた新聞、リモコンの他にティッシュ箱や漫画本、携帯ゲーム機等々多数の物で占められたテーブルに、椅子の上に放置されたワイシャツ。
一人暮らしの男に相応しい部屋だ。
同じ男として親近感が湧くのは、普段の俺もあんまり片付けられない類だからだろう。
なんとなく安心はした。
秋本の部屋は散らかしちゃいけませんオーラがムンムンだったから、尚更安心。肩の力が抜ける。
ジャケットにハンガーを通しながら、適当に座ってくれと遠藤。着替えたら珈琲を淹れてくれるそうだ。
じゃあ遠慮なく、俺は通学鞄を脇に置いて椅子に腰掛けた。