きみとぼくの、失われた時間
目を丸くする俺は、亀布団になる相手に恐る恐る声を掛ける。
毛布に包まって丸くなるだけの秋本は、吐き捨てた台詞の意味を一向に教えてくれない。
その態度、まんまガキなんだけど…、15の俺よりガキになってどうするよ秋本。
見合いの話、そんなに嫌だったのか…、それともお前は遠藤の言うように。
15年間、遠藤と共に探し続けてくれていたっていうお前は、俺のこと。
と、秋本が布団を跳ね除けた。
どうしたんだってビビる俺は、次の言葉にもっとビビることになる。
「嘔吐しそう」
秋本がそんなことをのたまってきたんだ。
そりゃあビビるよな。
急いで洗面器を渡す俺だったけど、便所で吐けると彼女は寝巻き姿で寝室を飛び出す。
布団を被ったから空気が蒸されて嘔吐感を呼んでしまったんだろう。
あいつは飲む加減を知らないのかよ、今日が休みだからって飲む分量は考えて欲しいもんだぜ。
額に手を当てた俺はやれやれと肩を竦めた。そうすることで気持ちを紛らわす。
「大学の飲み会、か」
あいつ、大学に進学したんだな。
大学ってどんな感じだろう? 中学とは全然違うのか? 高校にさえ進学していない俺には未知な領域だ。
何故だろう、酷く1996年が恋しくなった。
1996年以降の時間を過ごしている秋本に羨望を抱いたから、なのかな。
ゆっくりと立ち上がった俺は寝室の窓を開けてベランダに出る。
劣化しているサンダルを履き、ガラスには映らない窓を閉めた。
手摺に寄りかかり、生あたたかい微風を頬で受け止める。
秋本の部屋は四階、だからそれなりに景色が見渡せることができた。