きみとぼくの、失われた時間
俺は無愛想面の街並みを見つめてみた。
景色を邪魔するように黒い電線が張り巡っている。
何本もの電線がまるでバリケードのように張られているように見えるのは、俺の気のせいだろうか。
ナナメ左下のぼろっちい木造アパートの階段からは肌着姿でラジオを体操をしているおっさんが。
少し目を引けば、道路で犬とランニングしている若いお姉さんの姿。時期外れの日傘を差している婦人と擦れ違っていた。
もっと目を引く。マンションの真下を覗き込むと、駐車場が俺を見つめ返していた。
そこを駆け回る数人の子供の声。
なわとびを片手に子供特有の甲高い声で何か会話している。
声を聞く限り、男女混合で遊んでいるようだ。「―くん」「―ちゃん」と、各々名前を呼び合っている。
いいねぇ、子供は能天気に遊べて。
自分の年齢は棚に上げ、ついつい目線を高くして子供に羨望を抱く。
ふーっと息をつき、力なく空を仰いだ。
今日は快晴、いや雲があるから晴天のようだ。澄み切った青空が地上を見下ろしている。
うねるように流れる雲は変化を繰り返し、とうとう俺の視界から消えてしまう。
大きな時の流れと共に消えてしまう白い雲を見つめ、見つめ、見つめて、俺はその儚さにまたひとつ吐息。
風に流されて、どっかで消えちまう雲のように俺もいつか消えちまうのかな。
それとも時のリバウンドを受けて15年分の年月が一挙に襲ってくるとか。
想像するだけでも恐ろしいな。
15年後の俺はどんな姿になってるんだろう。背は伸びてるといいな。
せめて秋本の背は越しておきたい。
鬱々、ぼんやりとしていた俺はこうしていても一緒だと自省。
踵返して寝室に戻ると、家事にでも勤しもうと気持ちを切り換えた。そうでもしないとやってられない。
にしても秋本の奴、生きてるかな。便所に引き篭もったまま、音沙汰ないけど。