きみとぼくの、失われた時間
つんっと島津が俺の腕を突いてくる。
「透けてねぇな」でも影はねぇし、冷静に俺を観察してくる島津に、「実体はあるんだよ」と素っ気無く返す。
実体のある幽霊なんて聞いた事がないぞ、島津はコンビニで買った物を勝手に覗き込んで飯も食えるのかと聞いてくる。
食わなかったら腹が減る、諦め気味に言えば、変な幽霊だと笑われた。
で、さり気なくサイダーを差し出してくる。
人間扱いしてくれたことで俺の機嫌は上昇、「サンキュ」サイダーを受け取って喉を潤す。
炭酸のピリッとした喉越しが爽快だった。
「でもまあ、島津のおかげで助かった。指摘してくれなかったら、影のこと気付かなかったわけだし」
これからはもっと注意して行動できる。
とはいえ、完全に引き篭もるだけの生活になるんだけどさ、ポジティブに物事を考えつつ俺はネガティブに発言。
「なんで?」島津は率直な疑問を口にした。
「見たままじゃ幽霊だって分かんねぇよ。他人の影なんて滅多に注目しないし」
そんなこと言われてもバレた時が怖いしな。
今みたいに一々人に説明するのも面倒だし。
「島津だって半信半疑だろーよ、俺の話」
「んー、まあな。でも影ねぇからそうなのかなぁって、他人事みたいに思う俺がいるし」
そりゃ他人事だろうよ、俺のことなんだから。
今どうしているのだと聞かれ、俺は知人の家に居候させてもらっていると苦笑いを浮かべた。
15年前、俺は失踪している。
家族の下には戻れない。
こんな馬鹿げた話を信じてくれる知人の家に厄介になっていると呟いた。
普段は家に引き篭もってばっかりだと日常も教える。
近所に正体がばれるわけにもいかないから…、勿論学校に行けもしない。
「あれだな、それ…、つまんなくね?」
島津が同情してくる。
確かにツマンナイ生活だけど…、それもしょうがない。
割り切って生活しないとやってられないんだ。
とはいえ、俺も我が儘な子供だから、欲ってのが少しならず出てくる。