きみとぼくの、失われた時間
「お、お前等は何組なの?」
質問をスルーして組を聞く。
2組だと答える永戸は、担任の名前まで教えてくれた。
だけどその担任の名前に俺は「え゛」と声を引き攣らせる。
永戸、今、お前の担任名、秋本っつったか? 言ったよな? 言っちゃったよな?
……ははっ、まさかなぁ。
確かにあいつ、母校で教師してるっつたけど、まさかそんな偶然が巡って来る筈…。
「ちなみに聞くけど…、男か? 秋本って」
「え、何言ってるの? 秋本先生は女だよ。君だって知ってるでしょ。秋本桃香先生」
~~~ッ、知り過ぎてます。
嘘だろ、マジかよ、冗談だろ、泣きたくなってきた。
俺はアイツの教え子と今、こうして話してるのかよ。てことは、や、やばくね。俺がこいつ等と関わりを持つって。
だって一応、あいつは教師で俺は学生。
教師と学生がまさか、同居してるだなんて。
「優しいよね」「そうか」身悶えている俺を余所に、永戸と島津が和気藹々と会話を繰り広げる。
「確かに優しいっちゃ優しいけど、厳しいところは厳しいしな」
「それは徹也のサボり癖が災いしてるんでしょ。普段は凄く優しいよ。まだ独身だっていうのが信じられないよね。彼氏さんもいないらしいよ。クラスの女子が話してた」
「ははっ、けどすぐ結婚しちまうんじゃねえの? 噂によれば、高橋と親密な関係らしいぞ。ほら、2-1の担任。理科教師の」
ピキッ、高橋? 誰だっ、その高橋って男。
密かに口元を引き攣らせる俺に気付かない二人は、
「高橋の奴。先日食事に誘ったらしいぞ」「嘘。いつ?」「そりゃ知らんけど断ったとか」「へえ、なんで?」「見合い話があったからじゃね?」「見合いとかしてるの?」
真偽も分からない世間話に花を咲かせている。
食事、へぇえ食事ねぇ、誘われたわけね秋本センセイ。
いやべつにいいんだよ…、俺は。
失恋の身だから?
べっつに、お前が誰と食事しようが何しようが俺にはべっつに関係ないし…、……、はぁああ、嫉妬するなんてダッセェ。
嫉妬する権利なんて俺にはないだろうに。