きみとぼくの、失われた時間
「お前のせいで秋本に叩き起こされたんだぞっ! おいこら、坂本! 手間掛けさせやがって!」
「あんたねぇ、どんだけ心配掛けるわけ!」
ふ、二人とも島津と永戸がいるんだって。お手柔らかに頼むよ。
ドッドッドと心臓を高鳴らせていると、「お願いだから」心配掛けさせないでよ、打って変わり、か弱い声が聞こえた。
自然におさまる鼓動の高鳴り、否、別の意味で鼓動が煩くなる。
馬鹿、そんな声で呼ぶなよ。
頼むから俺を期待させんな。お前は俺のことを疎ましく思っていたじゃないか。
だから、期待させんなよ。頼むから。
期待させるくらいなら、昔のままの態度でいてくれたらいいのに。
お前、優しいようで優しくないことしてるぞ。
それに、嗚呼、くそっ。頼むから状況判断をしてくれ。お前の教え子がいるっつーの。
「そ、そんなに怒らなくてもいいじゃないか。桃香姉ちゃん。そりゃあ、姉ちゃんが俺の母さんの姉の子供…、つまり従姉妹だからってさぁ。心配し過ぎなんだよ」
やれやれと肩を竦めて陰から出る俺は、頭の後ろで腕を組んで昔からそうだよなっと猿も顔負けの猿芝居を始めた。
目を点にする秋本と遠藤の眼は、『え。お前何言ってるの』って顔だけど、俺は顎で人がいることを教えながら話を続ける。
「少しくらい、俺だって外をほっつき回りたかったんだって。家の中に引き篭もりなんてさぁ。ほらぁ、自分だって学兄ちゃんとイチャコラしてたし」
「はあ?! お、おま」
「学兄ちゃんと桃香姉ちゃんのアッマーイやり取りに胸焼けしたんです。ボク」
この大根演技に騙されてくれるのは永戸だけで、その隣で聞いていた島津はぶふっと噴き出して必死に笑いを堪えていた。
俺達の関係がどういう関係か、詳しくは知らなくても、俺の猿芝居をバッチシ見抜いているようだ。
口元を引き攣らせているのは向こうの二人。
善意で俺を探しに来たっていうのに、探し出してみれば何故か恋人に仕立て上げられてしまうという。
そりゃあ怒るだろうな(でも俺にはお似合いだと思うんだけど)。