きみとぼくの、失われた時間


「秋本先生と従姉妹だったんだ」


しかも恋人がいたんだ、知らなかったと永戸はニッコリ。



「だからお見合いや高橋先生の誘いを断っていたのか。でもなんで、あんなに坂本を探しに来ているの?」


生返事をする俺は「実は俺、病弱でさ」なかなか家に出してもらえないんだと嘘八百を並べた。

だからこうして、従姉妹の姉ちゃんとその恋人が心配して来てくれるのだと肩を竦める。うん、上出来な嘘じゃないか。

筋は通っている筈だ。筋は。

病弱がサッカーしてもいいのかって指摘されたら、…うん、ちょい返答に困るけど。
 

ようやく秋本先生は自分の教え子がいることに気付いたらしく、「島津くんに永戸くんじゃない」幾分穏やかに話し掛けていた。


教師らしい顔をする秋本は、坂本と一緒にいたのかと質問。

公園で知り合ったのだと笑う島津は「意気投合して俺がサッカーしようって誘ったんだ」と、俺に助け舟を出してくれた。


そうそうと頷く俺は、島津からサッカーボールを借りると遠藤に向かってパス。


身構えていなかった遠藤だけど、さすがは元スポーツマン。

綺麗にパスを受け止めてくれる。
 

「アラサーのくせに頑張るじゃん」


にやりと笑う15の親友に呆気取られていた遠藤は、ふっと表情を崩して、


「まだ29だっつーの」


サッカーボールを蹴り返してくる。


このやり取りだけで胸が熱くなるのは、なんでだろうな。遠藤。
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