きみとぼくの、失われた時間


「とにかく坂本、帰るわよ。家族が心配してるわ」 

 
俺の嘘に便乗してくれた秋本が耳を引っ張ってくる。

その手の強さから窺える怒りの度合いに俺は冷汗。こりゃあ、後でたっぷりと扱かれそうだ。
 
「痛いって」軽く彼女の手を払い、もう帰るのかと俺は唇を尖らせる。

「あんたねぇ」人に心配を掛けさせておいてっ……二日酔いの秋本が呻いた。反省はしているよ、反省は。
 

でも折角友達ができたんだし、もう少し駄弁らせてくれても。ここなら人目もないしさ。

「駄目よ坂本」きっつい眼光が飛ばされ、しゅんと肩を落としてしまう。久々に同年と喋れたのに。
  
 
「健、パス!」
 

立ち上がった島津が両手を振ってきた。
 
ぱちくりと瞬きする俺に、「早くしろって」意味深に笑みを送って催促してくる島津。


見事な連係プレイで永戸が「おいでよ」と手招きしてくれた。


自然と表情を崩してしまう俺は、「ごめん秋本」あとちょっとだけ遊ばせてくれと片手を出し、サッカーボールを蹴って二人の下に向かう。


「こら!」


秋本の怒声もなんのその。

二人の下に行き、蹴っていたボールを宙に舞い上がらせるとそのまま太ももで受け止めリフティング。

パスしてやれば、「ナイスパス」島津が俺を真似てリフティング。
足でボールをさばき、今度は永戸にパスした。

高く舞い上がるボールに、「え。僕は無理だって」慌てふためく永戸。

見事にボールが頭に当たり、その球体は島津、俺の頭へ順に当たった。

頭を擦りつつ、島津と噴き出してしまう。

「ナイスヘディング永戸」

「天音やるじゃんか。今のは簡単にはできねぇって」
 
大笑いする俺達に、額を擦っていた永戸もつられて笑う。

こんなにも愉しい時間は久しぶりだ。俺を仲間に入れてくれる二人とすっかり打ち解け、夢中で会話を広げる。
 
 
「もう、坂本ったら」

「秋本先生、許してやれよ。あいつは粋がっても15なんだ。本当ならああやって遊び三昧したい年頃なんだぜ? あいつはきっと寂しかったんだ。俺達と遊べないことにさ」

「……同級生だけど、同級生じゃないものね。遠藤の言うとおりだわ」


「ああ。坂本は元々家に引き篭もるタイプじゃねえからな。つまんなかったんじゃねえか?
あーあ、あいつ等を見ていると俺も15に戻りてぇな。仕事も上司も忘れてさ。

……うっし。おい、お前等。本当のリフティングを見せてやっから並べ。オニーサンが手本を見せてやる」


「え、遠藤。あんたまで?」

「お前は適当に座っとけ。二日酔いで辛いだろ?」
 

リフティングで遊んでいた俺達の下に遠藤がやって来る。
 
「まじで?」遠藤がリフティングを見せてくれるのか? 大興奮する俺に、「言うほど鈍っちゃないと思うぜ」ウィンクして、ボールを高く蹴り上げた。

足の甲で蹴り、太ももで受け止め、また足元に落としてそのボールを背後へ。

かかとで蹴って前に戻す高度な技に中坊組は感嘆の声を上げた。


「すっげぇー! さすが遠藤だ。寺嶋さんに負けてねぇよ!」
 
「今のどうやるんだ? ちょ、俺も挑戦してみたい」

「えー、徹也にできるの?」
 

「そりゃどういう意味だよ天音」


ぶう垂れる島津がチャレンジ精神を滾らせ、遠藤からボールを取ってリフティングを始める。

やっぱり遠藤のように高度な技はできなくって変なところにボールを飛ばし、失敗こいていた。


タイミングが悪いことにご神木に向かっている秋本のお尻に当たり、ある意味ナイスシュート。

腹を抱えて笑ってしまう俺と永戸に対し、「やっべぇ」島津が焦って彼女に謝罪していた。

「しーまーづ!」青筋を立てる秋本がおかしくて、また俺達は笑い転げる。


久しぶりだった。

友達とこんなにも笑うなんて、本当に久しぶりだった。
  

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